エコビレッジ

世界最大のエコビレッジ 南インドのオーロヴィルは理想郷なのか?

 

世界のエコビレッジ巡りを計画してから、楽しみにしていたのがこの「オーロヴィル」であった。一部ではユートピア(理想郷)とも呼ばれている。

世界最大という規模に加えて、インドという国とエコロジカルというワードが妙に結びつかなかったことが、僕の好奇心をさらにかき立てた。

僕はここに1ヶ月間滞在した。

 

訪問者の玄関口「Visitors Centre」

 

この地で実際に暮らしている人のことをオーロヴィリアンと呼ぶ。日本人のオーロヴィリアンは現在9人。その内の4人の方と直接お話をさせてもらった。

 

日本で最初のオーロヴィリアン「みちこさん」

 

実際にコミュニティの一員になったことで「理想郷にも問題はある」ということや、コミュニティの強さの源のようなものを知ることができた。数回にわたって、オーロヴィルでの体験を記録していこうと思う。

 

 

オーロヴィルとは

1968年、シリ・オーロビンドというヨーガ指導者と、フランス人女性ミラ・アルファッサ(通称:マザー)の提唱で創られた世界最大のエコビレッジ。

20平方km(東京ドーム約450個分)という面積の中で、世界の約35か国から集まった約2500人の住人が、100を超えるコミュニティの中で暮らしている(インド人はそのうちの1/3)。

インド政府やUNESCOから環境実験都市として支援を受けている理想都市でもある。世界中の男女が集い、あらゆる主義や宗教、政治、そして国籍を超え、平和と調和のもとに住むことの出来る世界都市を目指している。

 

南インドの郷土料理「ミールス」

 

目標は「Human Unity(人類の和合)」。

同時に、持続可能な農業・資源の節約や自給・価値提供の経済という取り組みを主体に、オフグリッドやパーマカルチャーというエコロジカルな暮らしを実践している。

オーロヴィル内ではAuroCardというチャージ式のカードを使用しており、(訪問者以外)金銭のやりとりはほとんどない。

 

AuroCard

 

ヴィレッジ(村)というより、カントリー(国)

オーロヴィルは20平方kmの面積を誇っている。これは、世界で3番目に小さい国「ナウル共和国」の面積とほぼ一緒なのだ。

そのため、移動には自転車やバイクが必須となる。僕も1ヶ月間バイクをレンタルした。そのおかげで、オーロヴィル内の様々な場所をめぐることができた。

 

 

ここに訪問する人は、少なくとも1週間の滞在と自転車かバイクのレンタルをおすすめする。でなくては、「大きすぎてよくわからなかった」という感想になってしまうだろう。

 

インドの自転車はかっこいい

 

ちなみに、滞在しているコミュニティやゲストハウスの名前を伝えれば、国際免許証がなくても誰でもレンタルすることができる。

 

 

一度も運転したことがない欧米人の旅行者が、「バイクはここで覚えたの!」といって颯爽と走っていた。青々しい空にピーんと伸びた背筋が印象的だった。

道は綺麗に舗装されているのだが、スピードを出さないようにする工夫として所々に意図的に作られたもっこりゾーンが存在するので気をつけて。

 

ヤマアラシの標識

お金を使用しないコミュニティシステムとは

一部では、「お金のやりとりをしない場所」とも言われている。僕の場合(訪問者)はやり取りは必須。滞在費や食費は当然のように必要だからだ。

しかし、それを極力しないように目指しているのがオーロヴィルだということだ。この面では、ビジター(訪問者)かオーロヴィリアン(住人)かで大きく変わってくる。

オーロヴィリアンともなれば、ほとんど使用しなくても生活ができるようだ。オーロヴィルとは、想像以上にシステマティックであるのだ。

◯オーロヴィリアン

本当のオーロヴィリアンになるためには、少なくとも2年かかる。「オーロヴィルに住んでいる=オーロヴィリアン」というわけではないのだ。

自分の持ち寄ったお金で住み始め、約1年ほどのお試し期間後、オーロヴィル議会で住民になる本採決が行われ、本人の経済状況によって住人になるための費用が決定し、それを払えばオーロヴィリアンを名乗れる。

つまり、オーロヴィリアンになるためには、数年間収入がなくても生活できる財力が必要だということである。必然的に年齢層は高くなる。

自国で得た財で悠々自適に暮らしている人が多い印象だが、唯一の決まりに「職業を持つこと」がある。そのため、オーロヴィリアンは何かしらの仕事をしてオーロヴィルに貢献し、報酬は全てオーロヴィルに還元されて運営費に充てられる。

オーロヴィリアンになった後も、一定以上の労働をすることによって自分のポイントが付き、やっとお金のないシステムに参加できるというわけだ。

 

牛も道路を歩いている

インド人の観光客と。

既存の村との関係性

オーロヴィルができた時、当然のようにその土地に住んでいるインド人はいた。その村が、今もオーロヴィル内に存在している。

よそ者が自分たちの土地に移り住み、勝手に農地を開拓して事業を拡大していく姿は決して良いものではなかったはずだ。

当初は、様々な問題が起きていたそうだが、村民の教育や医療などの無償化や積極的に雇用するという関係を築き上げてきたことでよくなってきたとのこと。といっても決して裕福ではないことが暮らしから想像できる。

地元の若者がしていた「カランボール」という遊び

 

 

昔からギャング同士の抗争が続いているとも言っていた。実際に、僕の滞在中にオーロヴィル内で殺人事件が起きた。ギャングが爆弾を使って攻撃し、それにナイフで応戦したことで死人が出てしまったそうだ。現地のインド人は、数年に1度あるんだよと言っていた。

その日から3日間、周辺の全ての店は営業停止となっていた。それまでは、一ミリも物騒な雰囲気を感じていなかっただけに、衝撃は大きかった。

近年のオーロヴィル

オーロヴィルには「Town Hall」という役所も存在する。ここで、ビジターにとっては様々なコミュニティに入る玄関口となる場所でもあり、オーロヴィリアンにとっては事業を行う際に必ず必要な機関となる。

Town Hall

 

しかし、最近はこの「Town Hall」のあり方も変化しているとのこと。セメントを使わずに自然物だけで立派な家を立てた人が、役所の許可が下りないということで人にも貸せずに売ることもできずにいるという話を聞いた。

 

セメントを使わずに立てた家

 

何度問い合わせても、許可が下りない理由を教えてもらえないとのこと。世界的に有名になったオーロヴィル。役所もどこか慎重になっている節があるようだが、エコヴィレッジという名にふさわしい考えは、スピード感を持って柔軟に取り入れてもいいのになぁと素直に感じた。

どこにも問題はあるものだ。

 

オーロヴィル図書館

「できるだけ決まりのない社会を」

これは、創始者であるマザーが残した言葉だ。

「できるだけ決まりのない社会を」実現するための“決まり”は少なからず必要だが、人間の本質を信じようとした人の言葉であるとも感じる。オーロヴィルは大きくなりすぎてしまったのだろうか。

 

 

そんな中でも、マザーの思想に賛同する人々が後を絶たず、その精神に忠実な人々がオーロヴィルを支えている。人の信じるところに人が集まる。決まりの多いこの世の中、もっと人を信じることで決まりや制約から解放するゆるい思想が必要なのだろう。

それは、僕が過去に滞在した「廃材エコヴィレッジ」や「三角エコビレッジサイハテ」に存在した共通する思想に似ている。

 

毎日どこかでワークショップが開かれている

ヨガのワークショップに参加

 

エコヴィレッジに関する著書を出しているワシントン大学のカレン・リトフィン氏は「オーロヴィルは完璧な場所という意味のユートピアではない。だが、そうなろうと働きかけている。人類を前進させる最高の場所になろうと努力している。しかし、結局のところ人間は完璧ではないのだ。」と言っていた。

 

完璧にはなれないと理解していながら、人類はどこか完璧を求める

 

そんな不器用で素直な人類が、急に愛おしくなった。

 

 

つづく…

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