サイトアイコン 未来の園長、旅に出る。

飛行機の乗り損ねと数分先はザンジバル

 

イタリアの次はタンザニアを目指す。その理油は2つで、1つがworkaway、もう1つがラエトリ遺跡に行くためだ。

ラエトリ遺跡には、人類最古の二足歩行跡がある。タンザニアではFootPrintsと呼ばれていた。そこは“人類始まりの地”という見方もできるのだ。関野吉晴さんという方が、人類拡散ルート(グレートジャーニー)を逆ルートでたどり、その最終目的地とした場所がこのラエトリ遺跡でもある。

僕も実際にその地に訪れたいと思ったのが、旅を始めた理由の1つでもあった。ロマンという実に意味のない不確かなものに魅せられて、タンザニアという地を目指しているというわけだ(笑)。そして、人類最古に近い場所で生活をしているタンザニアの人々の暮らしにも興味があったので、4回目となるworkawayをここに決めた。

 

イタリアからタンザニア

イタリアのフィミチーノ空港からタンザニアのキリマンジャロ空港へは、一度エチオピアのアディスアベバ空港を経由する。飛行機の乗り継ぎが必要ということで、何事もなくエチオピアのアディスアベバ空港に降り立った。その時間が朝の6時。出発は10時なので4時間もある。

僕は、出発ゲート前のベンチで仮眠することにした。飛行機を乗り過ごしたら大変だろうなぁと思いながら、携帯のアラームを9時にセットして横になった。この判断がのちに、トラブルを招くことになるとは夢にも思わなかった。

 

「Excuse me. …Excuse me!」

 

ベンチに横になって熟睡していた僕の足を叩きながら、空港スタッフは心配そうな表情で「Excuse me!」と言っていた。もしかして寝過ごしたか!?と一瞬思って時計を見るとまだ8時だった。なんだびっくりさせないでよと思いながら、スタッフの言葉に耳を傾ける。

 

「あなたはどこに行くの?」

 

「キリマンジャロ空港です(航空券を見せる僕)。」

 

「えつ!?(表情が固まるスタッフ)」

 

次の瞬間、スタッフは「Come!!」という声を張り上げた。

 

一緒に搭乗ゲートを駆け足で通り抜け、飛行機へ乗るための扉に向かう。その間は頭に「?」マークしかなかった。目の前には頑丈に閉じられた飛行機の扉とこちらに歩いてくる1人のスタッフが見えた。そして、その通路の窓からはゆっくりと動いていく飛行機が見えた。

 

あー、これは僕が乗るはずだった飛行機だ…

 

僕は飛行機に乗り損ねた。

 

スタッフは「ごめんない。もう出発してしまったわ…」と言っていた。

 

 

こんな一大事が起こると、人間は一周回って冷静になるのかもしれないと思うほど、僕は不思議と落ちついていた。というか、思考が停止していたのかもしれない。

 

でも、どうして飛行機は早く出発したのだろう。

 

「今何時ですか?」

 

「10時よ!」

 

「えっ?」

 

スタッフの腕時計は間違いなく10時を指していた。

 

 

時差

そこで初めて、僕は「時差」という悪魔に気がついたのだ。

 

 

イタリアとエチオピアの時差は2時間。つまり、僕がエチオピアのアディスアベバ空港に到着した本当の時間は6時ではなく8時だったということで、ボーディングタイムの9時20分まで1時間ちょっとしかなかったということになる。そんな中、僕は優雅に仮眠してしまったのだ。

 

まぁ、乗り過ごしても今日中には行けるだろうとカスタマーカウンターに行く。

 

 

「へーいブラザー!残念な知らせだ。キリマンジャロへの便は明日になるね!」と、そこのスタッフは陽気に僕を地獄に突き落とした。

そして、こう続ける。

 

「へーいブラザー!ホテル代は70ドルだ!」

 

「7、70ドル…高っ!!!!」

 

空港泊

旅人というのは基本的に節約生活を送っている。一晩の宿代も高くて30ドルというところだろう。そんな中、70ドルと言われたので僕は空港泊を選択することにした。トム・ハンクス主演の映画「ターミナル」を思い出す。

 

出発は24時間後。僕はまる1日、空港の搭乗階のみで過ごすことになったというわけだ。

 

振替券とランチを用意してくれた

 

この時間ほど、喜劇王チャップリンの「人生は近くで見れば悲劇だが、遠くで見れば喜劇である」という言葉に救われた時はなかった。まるで抜き足差し足のように、じわじわ空港からバックで離れていく飛行機。それに気がつかずにベンチで爆睡している一人の男に声をかけるCAさん。そしてベンチに白目をむきながら座るアジア人…。遠くから眺めてみると面白すぎる光景である。

 

 

悪夢再び!?

硬いベンチと電源のない空間で過ごすこと24時間。

朝を迎えた僕は、早めに搭乗ゲートに向かった。ここでは寝ないぞと誓って出発を待っていると、大勢いた搭乗待ちの人々がいなくなっていた。

 

「えつ…」

 

前日の悪夢が頭をよぎる。

 

急いで近くのスタッフに聞くと、ゲートが変更になったとのこと。慌ててゲートを移動する。新しいゲートにはまだ多くの人々がいたので、ほっと胸をなでおろした。昨日といい、アフリカの地はこれでもかというほど僕を試してくる。そんな一筋縄ではいかない日常が、旅の醍醐味であったりもする。旅は、困難に動じない精神を育む。

 

 

泣いていたCA

そのゲートの列に並んでいると、血相を変えて走ってくる1人の空港スタッフがいた。そのスタッフは頬を赤らめながらか泣いていた。僕らの横を通り過ぎ、そのスタッフはゲート受付位置に着き、チケットをさばき始めたのだ。それも泣きながら…。

 

これは推測でしかないが、そのあとの他のスタッフとのやり取りを見ていると、どうやら何かしらの理由で到着が遅れてしまったのだろう。そのスタッフが来るまでは、最初他のスタッフ1人で搭乗受付をしていたからだ。

泣きながらチケットをちぎるスタッフ…。数年前、寝坊して仕事に遅刻した記憶を思い出した。同情のような意味も込めて、笑顔で「Thank you!」とそのスタッフに言って搭乗した。

 

数分先はザンジバル

エチオピアのアディスアベバ空港からタンザニアのキリマンジャロ空港までは2時間半。無事に搭乗できた安心感からか、その2時間半はあっという間だった。

無事にキリマンジャロ空港に到着。前方の人々が降りる支度をしている。まぁ慌てることないか、とゆったりしていた。しかし、5分…10分…15分…とたってもなかなか飛行機から出られない。

僕の不安とは裏腹に、周りに座っている人たちはとても落ちついていた。しびれを切らしてスタッフに搭乗券を見せると、前日見たあの顔が待っていた…。

 

「あなたはキリマンジャロで降りるの?」

 

「もちろん」

 

「急いでこっちに来て!」

 

まさか…

 

 

スタッフに連れられて飛行機の出口付近に行く。その扉は固く閉ざされていて、飛行機と空港とをつなぐ通路もなかった。そのスタッフは周りのスタッフや機長に話しに行っていた。

 

そこで初めて、この飛行機はキリマンジャロを経由してザンジバル島にいく飛行機だとわかった。空港に到着して移動していた人々がここで降りる人々。そして、僕が座っていた周辺の人々はザンジバル島に行く人々。そして数分後には、この飛行機は飛び立とうとしていたのだ。

 

10分くらいスタッフたちはもめていた。扉を閉めてしまったら開けることができないとか決まりがあるのだろうか。僕は非常に肩身の狭い姿で、扉の前の椅椅子に座っていた。

 

(飛行機のスタッフをはじめ、ザンジバル行きを待っている方々、誠に申し訳ございませんでした…)

 

だが、僕はザンジバル島に行くわけにはいかない。僕は必死にここで降りたい、降ろしてくれと懇願した。よく、電車の乗り過ごしは聞くが、国をまたぐ乗り過ごしは聞いたことがない。まぁそれはそれで面白いか、半ばあきらめのような思いで機長の判断に身を任せていると、階段がついた車が近づいてきた。

 

「機長ーーーー!!」

 

 

汗ばんだ拳を震わせながら心の中でそう叫んでいた。

 

厳重な扉が開かれ、最初に入ってきたのは、見るからにドンといったお局キャラの年配女性スタッフであった。

 

「何が起きたのかしら?」

キリマンジャロ空港を影で仕切っているような年配スタッフは神妙かつ怪訝な表情でCAに話しかける。

 

その後スタッフ同士の多少のいざこざはあったものの、僕は晴れてタンザニアの地を踏みしめることができた。地上が恋しいと感じたのは、生まれて初めてであった。

 

当然のように、空港には僕以外の旅行者はいなかった。それもあってか、タンザニアに入国するための「アライバルビザ」取得もスムーズに行えた。前日に届いていたであろう僕のバックパックも無事に受け取ることができた。

 

一歩を踏み出せるかは、受け入れることができるかで決まる

前日の乗り損ねから、今回の乗り過ごし未遂…。

その経験からの教訓といえば、周辺の人ともっとコミュニケーションを取っておこうということだろう。旅をしていると、何もかも自分でしなくてはいけないので、自分が持っている情報だけで判断する。

しかし、それを周囲の人々と共有したり、情報を交換することで、物事がスムーズにいくように感じた。きっと、それは旅に限ったことではなくて、一般社会においても同じだと思った。

もちろん最終的に判断するのは自分なのだが、その過程において自分だけの判断には脆さがある。

 

 

はぁ〜。

ため息とは違う、思考がフル活用して目の前のことと向き合った自分を讃えるかのような息を、僕は笑いながらはいた。

 

何が起こるかわからないという状況下において、初めて人の真価が問われる。僕は動じないタイプの人間のように見えて、頭の中では思考が目まぐるしく縦横無尽に駆け巡っている。その過程が少しずつシンプルになったような今回の経験。

 

一歩を踏み出せるかは、受け入れることができるかで決まる。

 

 

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