デンマークに引き続き、フィンランドでもWorkawayを行った。
場所はフィンランドでも北部にあたるInariという地域。ロバニエミからさらにバスで5時間北上したところにある。僕はそんな北極圏真っ只中で、トナカイ12頭を飼育している先住民族「サーミ」の家に1週間滞在した。
Workaway
【1日の流れ】
- 9:15 朝食
- 10:00 仕事
- 12:30 昼食
- 13:30 仕事
- 15:00 ティーブレイク
- 15:30 仕事
- 17:00 仕事終わり
ここでは1日平均6,7時間という労働をした。Workaway の基本は5時間であることと比べると長時間となる。しかし、ここでの仕事は僕が自ら望んだ結果だ。体力的にキツイ仕事もあったが、何よりも楽しかった。強制的な様子もなく、5時間たったから今日はやめたいと言える雰囲気もあった。
僕は最近、3回目となるWorkawayをイタリアで終えた。それを踏まえてWorkaway全体の話でも、労働時間5時間というのは稀であるということだ。もちろん、その規定の時間を守ってくれるホストもいる(デンマークのWorkawayように)。
しかし、仕事は1日を通して限りなくあるし、ホストの人柄の良さによって「もっとこの人たちに貢献したい」と思わせたり、ホストがまだ働いているから自分も…というのが正直なところである。
そこでの両者による歪みが生まれてくるのであれば、ホストとの交渉が必要だろう。最近、僕はこれによってイタリアでのWorkawayを、予定よりも1週間早く終えた。仕事のやり方や内容、ホストの人柄がやはり影響する。やっぱり、仕事は気持ちよくしたい。
サーミとは?
サーミとは、ノルウェー・スウェーデン・フィンランド3国の北部と、ロシア北部のコラ半島にまたがる「ラップランド」と呼ばれる地域に暮らす先住民族のこと。(ちなみに「ラップランド」とは“辺境の地”という意味)。捨てるところのない万能の資源であるトナカイを飼育しながら、大自然の中で狩猟や遊牧生活を営んでいる人が多い。
仕事内容
ここでの仕事は、主に広大な敷地(森)の中にあるフェンスの修復作業であった。
そのフェンスはトナカイを外敵(ヒグマやグズリなど)から守るためのフェンスでもある。所々腐敗して倒れかかった木の柱を取り除き、そこに専用の道具で穴を掘って新しい柱を立て、フェンスを再びつなげるのだ。
また、ジャガイモの収穫や近隣の島にボートで行き、フィンランドの名産ベリー摘みなんかもした。ちょうど紅葉の時期と重なり、湖×森×トナカイ×紅葉という僕にとっての異色な光景は何度見ても飽きなかったし、それが異国感を強くただよわせた。
響き渡る鳥の鳴き声や風の音以外何も聞こえない雰囲気は、とても美しくもあり、どこか得体の知れない恐怖にも似た感情を呼び起こしたりもした。それが自然の偉大さというものなのだろうか。
サウナ
そして、「サウナ」はフィンランドが発祥。このホスト先にも、親から受け継いだ伝統的なサウナ小屋があり、僕はそこで貴重な体験をさせてもらった。古いサウナ小屋を、年々修復して改良しながら維持している。
その小屋の中で体も洗うことのできる設計になっていた。
フィンランド式サウナでは、温められた石に水をかけてその蒸気(ロウリュ)を浴びるという一連の流れがある。マッティ(旦那さん)と共にサウナに入り、その流れを説明してもらう。
「他の国ではこの蒸気を浴びないんだろ?おかしなことだよ!これがなきゃサウナじゃない!」と言って、慣れた手付きで柄杓で水を汲み、その水をヒュッと50㎝くらい離れたい熱された石に投げ込む。
投げ込まれた水は見事に範囲内に収まり、熱された蒸気となって数秒後に僕の体を覆う。これはやみつきになるなぁ。
その蒸気によってだいぶ温まったら、いったん外気(5℃)を浴びてリフレッシュ。自分から立ち上る湯気からは薪の匂いがした。それを数回繰り返し、最後には小屋の隣にある湖(10℃以下)に飛び込むのだ。
「これをすることでこの後に汗が出ないんだよ!」とマッティは言っていた。
サウナ上がりは、じわじわと出てくる汗がその後の冷えをもたらす。日本でも水風呂は何度も経験しているが、湖はレベルが違っていた。30秒後、僕はゾンビのような歩き方で湖からあがっていた。冷たすぎて足が動かなかったからだ。
バスローブを着ながら「どうだ!?最高だろ!?」とマッティは言った。
僕はむしろ体が冷えすぎて寒かった。僕は、湖の後にもう一度サウナに入るくらいが丁度良かったと思う。ただ、本当に面白い経験ができた。
「こんな気持ちのいいサウナは初めてだよ!」と、体を小刻みに震わせながら僕は言った。
もちろんその後は、マッティの言う通り汗が全く出なかった。
サーミとトナカイ暮らし
最初に書いたように、ここには12頭のトナカイがいる。このトナカイはペットでもあり食料でもある。もちろん、一頭一頭に名前もある。トゥーラ(奥さん)は、サーミの末裔。サーミにとってトナカイが特別な存在なのは、トナカイの全てを活かすから。
肉はもちろん食し、角はバターナイフや針、ボタンや部品に変え、皮は靴や洋服に、骨はナイフの柄などにする。今あるものを生活の中で活かそうとする思考は、きっと先住民族の暮らしには溢れている。まさにエコロジカルな暮らしである。
食卓には、たびたびトナカイの肉が並ぶ。貴重なので毎日は食べない。味はというと、臭みゼロで肉質も簡単にほろほろとほぐれる柔らかさ、これまで食べた肉料理の中でも上位の美味しさであった。
マッティはナイフを使いながら、骨についた肉を1㎜も残さないくらい器用に剥がして食べていた。美味しさと貴重さが伝わってきた。
トナカイは非常に温厚な性格で、僕は馬よりも接しやすかった。角や体を触られることは嫌がるようだ。耳が非常によくて、専用のベルを鳴らせば遠くにいてもしばらくするとやってくる。
餌がもらえると理解しているのだろう。12頭はいつも群れで行動し、敷地内の森の中を縦横無尽に歩き回って大好きな草やコケを探していた。
サーミといえど、現代科学(家電など)も利用している暮らしだった。それと同時に、サーミの伝統や文化を観光客や次世代に伝えることもしている。2日に1組といった割合で観光客がトナカイを見に来て、トゥーラがガイドしていた。
自給自足とピクニック(ティータイム)
そこでの暮らしは自給自足であって、その時期はじゃがいもやベリー、きのこが豊富に実っていた。
森の中でそれらを収穫してジャムを作り、玉ねぎときのこのピクルスなどを大量に作り、冬を越す準備をする。じゃがいもは毎日のように食卓を飾っていた。家の地下には秘密の部屋(保存庫)がある。食料や保存食は主にそこに保管されていた。
トゥーラはとても料理上手だ。パンやデザートも作る。ここでの滞在中、ご飯も楽しみの一つだった。
それも、ほとんどがここで採れた食材で作られたものだった。
そして、よくピクニックをする。簡易的な食事(パンやコーヒーやデザートなど)を用意して、外で焚き火をしながらお湯を沸かしてコーヒーを飲む。また、近隣の島までボートで行って豊富に実るベリーを摘み、それらをパンに挟んで食べたり、魚を持って行って燻製にして食べたり…。
日本ではよく「キャンプ」の時や休日にするが、生活の一部のように頻繁にそれが行われる。自然との距離がとても近い暮らしであった。
オーロラ再び
オーロラはロバニエミでも観測できたが、フィンランドでも北端に位置するinari地区だけあって、滞在中に何度も見現れた。
色鮮やかなカーテンが風に吹かれてゆっくりなびいていく動きのあるオーロラを、ここでは見ることができた。
丁寧な暮らし
ある日の朝、氷点下によって車にできた霜を見て、トゥーラは「わお!美しいわね!」といって写真におさめていた。
ある時は、収穫したじゃがいもを見て「見てこのじゃがいも!面白いわね!」といって似たような形のじゃがいもを集めて、それを並べて「家族みたいね!」と言って写真におさめていた。
ここに住んでもうすぐ60年という月日が経っても、自然の中にある美しさになお気づき魅了されるトゥーラの生き方が素敵だった。
ここでの暮らしは、まさに「丁寧な暮らし」であった。まるで、映画「人生フルーツ」のような、自然の恵みを余すことなくいただいて、ゆったりと豊かさを紡ぎあげる暮らしが、オーロラの美しさのように僕を魅了した。
最終日、お礼にインスタント味噌汁を振る舞った。その時の表情がこれだ!
お世話になりました!!