Workawayをしたのは、デンマークが初めてだった。
フィリピンで語学留学していた時、旅のことで相談したインターンスタッフのあやかちゃんという人がいた。その会話中に「ざっきーWorkawayしたらいいよ!」の一言から、旅中にこのWorkawayを調べて登録して実際に体験することにいたったというわけだ。
Workawayは、観光よりも現地の暮らしを体験したい僕の旅スタイルに合っていた。この記事を書いている今も、計3回目となるWorkaway体験をイタリアでしている。
Workawayとは
簡単に言うと、宿泊費と食費をまかなうホスト先と、1日平均5時間の労働ができる人とをマッチングさせるサイトのことである。WWOOFと似ているようだが、WWOOFはファームに特化したサイト、Workawayはファーム以外にもベビーシッターや語学、日曜大工や農作業など様々な仕事があるのが特徴的だ。
僕はファーム以外にも様々な仕事を体験してみたかった。4000円弱の年間費を払い、個人プロフィールを記入する。自分が行く国や仕事内容を見てホスト先に連絡をして、お互いの需要が一致すればそこでのWorkaway(ホームステイ)が可能となる。
僕のホストファミリー
デンマークのホストファミリーは、首都コペンハーゲンから電車で1時間の田舎町「リングステッド」という町に暮らしていた。
僕はここに、2週間滞在した。そこでは家族6人に加え、ヤギ2頭・ガチョウ4羽・猫2匹・羊2頭を飼っていた。
昔は麦工場であった施設を買い取り、その敷地内に将来は自給自足な暮らしが体験出来る施設を作るため改装しているホストであった。
既にそこには、子ども用の独立した家があったり、家庭菜園が作られていた。全て手作りである。この家族は数年前までコペンハーゲンに暮らした。そのため、首都とそうでない場所とのギャップに悩んでいるという話をよくしていた。
リングステッドに移り住み、近隣住民のコペンハーゲン(首都)に対する嫌悪感、役所に柔軟さがないこと、食(オーガニック)への関心の低さなどがその原因であるとのこと。もちろん、これは僕が滞在した1家庭での話なのでこれが全てではない。
日本では「地方再生」という言葉もあるように、その地域独特のものに磨きをかけて地域活性化、そして面白いものを発信して日本を盛り上げようという傾向を感じる。
それが、まだリングステッドにはないのだという。だから、クリステルは将来上記のような施設を作り上げ、この地域に活性と潤い、そして柔軟性をもたらしたいと語っていた。
勝手にデンマークは「オーガニック」が盛んなイメージがあったが、それはコペンハーゲンでのことであり、地方では農薬を使う農家がほとんどだとか。
僕がこの滞在で印象に残ったのは、ヨーロッパの家庭では一般的なのだろうが、どんな簡単な食事(朝食や軽食)でも、ナイフとフォークを用意してろうそくに火を灯すということだ。(やろうと思えばフォークでも食材を切れるのになぁと思うのは僕が日本人だからだろう)
しかし、レストランや記念日とかならまだしも、それが日常でも行なわれているということに驚いたのだ。一つ一つを丁寧に生きている様子が伝わってきた。
息子のミッシェルは、日々サッカーに明け暮れていた。コペンハーゲンにあるサッカーチームに所属しており、帰宅が毎日21時を超えていた。
ミッシェルのトレードマークとなっている長髪も、コペンハーゲンでは何も問題はなかったのだが、ここリングステッドの学校や環境からは、気持ちの良くない受け入れ方をされたのだとか。転校先のサッカーチームでも、特定の子からのイジメにあい、それが大怪我につながったこともあったそうだ。
家族で話し合い、学校やサッカーチームをコペンハーゲンに移すことに決めた。そして、ちょうど学校を移し変えて1週間がたった頃に、僕がWorkawayとして滞在し始めた。
拠点以外をコペンハーゲンに変えたことで、順風満帆にことが動き出したそうだ。クリスチャニアのように、多様な価値観を受け入れる文化が「コペンハーゲン」にあることが大きいという。
クリステルも、クリスチャニアを絶賛していた。workawayで来た人は、ネットのみの情報から「危険」という思い込みが多く、「実際に自分の目で確かめてみて。素敵なところよ!」といつも言っているのだとか。僕も、この滞在中に「クリスチャニア」に訪問したのだ。
仕事内容
僕が滞在中にした仕事は、主にこんな感じの内容であった。
- 芝刈り機や鎌での除草
- りんごやくるみの収穫
- 内壁剥がし
レンガ造りの内装を一変させるため、内壁を剥がす作業が大半を占めた。解体屋みたいな仕事を慎重に行う。危険と隣り合わせな仕事をしたのは初めてであった。
デンマーク
毎日21時からクリステルとのティータイムが楽かった。そこで、家族のことやデンマークのことなどについて多くの話が聞けたからだ。
僕は、デンマークが「幸福度ランキング」でいつも上位を占めていることを話し、日本ではとても関心が高いことを伝えた。すると、クリステルは笑ってこう言った。
「アジア人はみんなそう言うわね。でも私たちはそんなこと思ったりはしていないわ。もちろん、家族がいて健康に過ごしているのは幸せなことね。でも、みんな悩みはあるしデンマークが特別ってことでもないわ。普段、身の回りで起きたたくさんの愚痴を言っていても、調査員が電話をかけてきた時にはみんな“とても幸せ”と伝えているのよ。」
僕は衝撃であった。もちろん、高い税金のおかげで手厚い社会福祉が誰でも受けられることや、大学すらも無料で学べる環境がそのランキングに影響しているものの、考え方や感じ方は一緒なのだ。では何が違うのかというと、自分を卑下しないということだろう。つまり、自己肯定感がとてつもなく強い。だから、調査員の質問にもそう答えるし、周囲にもそれを伝えたり自分という存在を惜しげもなく表現する。
クリステルも、「日本人は謙虚でおとなしいわよね」と話していた。謙遜文化が残る日本では、一個人がする主張は認められずらく、多数決という大多数が示す考え方が正しさとなってしまう。その一方で、奥ゆかしさ・真面目さ・社会性という面では突出しているように感じる。
何をもって幸福とするのかという議論に終わりはないと思うが、現状を捉える個人の価値観がそのランキングに影響していることを、この滞在は教えてくれた。
どこでも隣の芝は青く見えるものではあるものの、普段目の前にあるのに見えにくくなっているものを見つける能力は、きっと幸福度ランキングの上位を占める国にはあるのだと思う。
ケーキ文化とHygge(ヒュッゲ)
そして、デンマークには「ケーキ問題」があるとクリステルは言っていた。学校や職場には、ケーキ文化があって、頻繁にケーキを食べる習慣があるそうだ。保護者が順番でそのクラス人数分のケーキを作るという習わしがある。それが、大人になっても職場で行われており、肥満が国の問題にもなっているという。
もともと、デンマークには「Hygge(ヒュッゲ)」という【心地が良い時間や空間】を意味する文化があり、家族や友人たちと自分たちが好きなものに囲まれながらゆったり過ごす時間を大切にしている。このHyggeが幸福度を高めているという見方もある。しかし、このHyggeの形だけが残って、意味が失われつつあるという。それが、クリステルの言う「ケーキを食べる」ということなのだろう。どこでも、慣れは本質を見失わせるもののようだ。
毎日21時から行われていたティータイムは、まさにHyggeな時間であった。デンマークと日本の比較をしてお互いに驚いたり笑いあったりした。不思議とクリステルの英語は聞き取りやすかった。お互いになんとかして伝えたいという思いがそうさせたのかもしれない。
旅をしてまだ数カ国だが、英語の聞き取りやすさには必ずそういった思いが関わってくる。そんなクリステルとの会話は、日本語同士という甘えによって、感情が薄れていた自分のこれまでをふりかえさせた。
これも海外あるあるだと思うのだが、外に出れば出るほど自分の中の「日本」が見えてくる。やっぱり、僕は日本人なのだ。
手巻き寿司
お世話になったホストファミリーに、「手巻き寿司」を振る舞った。
食材をコペンハーゲンに買いに行ってみると、港町なのに魚の種類が全くなかった。サーモンと他2種類といった感じのラインナップ。そして手巻き寿司のメインとなるマグロがない…。仕方がなく、サーモンや缶詰のシーチキンを筆頭にそれっぽいものをかき集めた。
そして、やはりという感じなのだが、日本の調味料や食材はほとんど売っていない。現地のスーパーやアジアンスーパーなど6カ所を巡った。「アジアンショップ」というくくりの中に、いくつか他国で作られた日本っぽいものが売られているだけだった。
作っている最中に僕が、「子どもたちは酢飯や海苔は食べないんじゃないかな?」と話すと、「それでもいいわ。ぜひ日本の文化を味あわせてあげて!」と言われたのが印象的だった。
結果的に、ホストファミリーはとても喜んでくれた。味噌汁も気に入ってくれたようだ。「本当に美味しかったわ。そして、とても刺激的だったわ!」
子どもたちもみんな「本当に美味しかったよ。ありがとう!」と言ってくれた。
日本の文化を少しでも披露できたことに対する喜びとともに、デーブル上に大量に残った酢飯が目の前に飛び込んできて、思わず僕は笑った。作りすぎてしまったと思うことにしよう。
クリステルはよく「Workawayのホストをしていると、多様な人や文化が知れてとても楽しいの!今、私は旅をしていなけれど、まるでしているような気分になるのよ!そして、デンマークという国をまた知るのよね!」と言っていた。
クリステルも、若い時は様々な場所を旅していたという。
自国に誇りを持っている人は、他国を見てきた人なんだと思う。
そして、自分に誇りを持っている人は、多くの人と出会ってきた人なんだと思う、たぶん。