デンマークには訪れたい場所があった。それがここ「クリスチャニア」である。
題名は忘れてしまったのだが、知人に勧められた本の中にこの場所のことが書かれてあったのだ。自分でも理由はわからないが、脳裏から決して離れなかった。そして、僕の中にうずくまって埃をかぶっていた冒険心が動いた。
クリスチャニアとは
クリスチャニアとは、デンマークの首都コペンハーゲンのほぼ中心にある自治区。独自に国旗や国歌を作り、デンマークとは異なる独特のルールのもと異色なコミュニティを形成している。
人口は約1000人、面積は約34ヘクタール。レストランやカフェ、売店やスタジオなどの賑わいを見せるエリアの他に、森に囲まれ湖畔を優雅に眺められる閑静なエリアが存在する。
僕は、このクリスチャニアを、スコットランドのフィンドホーンで知り合ったRuthに案内してもらった。デンマーク出身のRuthに、デンマークに行くことを話すと、私が案内するから連絡してねと言ってくれた親切なマダムである。
Ruthは、クリスチャニア一帯が昔軍の施設であったことを話してくれた。そこにヒッピーが住みつき、結果的に軍を追い出した形となる。
そのため、当時の軍の面影が随所に見られた。ヒッピーが軍を追い出す…。もうそこからクリスチャニア伝説が始まっていたようだ。
大麻と平和
クリスチャニアには連日多くの観光客が押し寄せる。その理由の一つには、やはり「大麻と平和」という異色のコラボレーションがあるからだろう。昔、政府とハードドラックを始めとする様々な意見相違によって抗争が何度もあったそうだ。
住人は勝手に独自のルールを作り上げ、それを主張する。政府はデンマークのルールを主張する。ヒッピー恐るべし。その一方で、市民は税金を納め北欧ならではの手厚い社会福祉を受けているという。
勝手すぎるよヒッピー…という見方もできるが制度や過去の型にはまった価値観を否定し、ノールールの中でも人間社会が成り立つことを、暮らしを通して体現しているのが「ヒッピー」であるという見方もできるかもしれない。
僕がクリスチャニアを訪れたのは2018年の9月。その時、プッシャーストリートと呼ばれる数十mの通りで大麻は平然と売り買いが行われていた。政府が黙認するという、まるで映画のような光景が目の前にあった。その通りでは、写真撮影が禁止となっている。一応違法であることを意識してのことだろう。
そして、これは僕がデンマークのリングステッドという地域(コペンハーゲンから電車で1時間)でホームステイしていた時に聞いた話だが、患者の痛みがひどくてどうしようもない時に、医者が大麻を処方することもあるとのこと。
これが俗にいう医療大麻だ。もちろん、一般的ではなく一部だと思う。しかし、デンマークという国は、大麻に対してのハードルが低いのは事実である。
ルール
昔の抗争から変わったことといえば、新たなルールができたこと。それは…
- ハードドラック禁止
- 暴力禁止
- 自動車通行禁止
ツッコミどころ満載のルールだが、自動車通行禁止というのは、警察車両を敷地内に入れないためのルールなんだとか…。
その他の細かいルールは「落書きOK」「犬を鎖でつないではダメ」「武器禁止」「盗品禁止」「花火販売禁止」「防弾チョキ着用禁止」となっている。
落書きOKという環境だからなのか、クリスチャニア内はアートで溢れている。試すことができる環境というのは、どこでも必要なのだろう。
施設内には、立派なスケートボード場もあった。
抗争があった時代が想像できないくらい、今のクリスチャニアは平和そのものであった。ベビーカーを押す人がいれば、ランニングやサイクリングを楽しんでいる人もいた。湖を眺めながら優雅にピクニックも行われていた。
もちろん、クリスチャニアには人が住んでいるので、当然子どももいる。ということは幼稚園も存在する。僕が訪れた時は日曜日だったので、実際の様子は分からないのだが、休日に幼稚園内(園庭)で数人の家族連れがゆったりと遊んでいた。
休日に園庭が使えるのは、きっと日本では珍しいことだと思う。それもクリスチャニアだからこそできる環境なのかもしれない。
国旗
47年前にできたクリスチャニア。国旗の意味を調べてみた。初めは「Christiania」と書こうとしたらしいのだが、文字数も多くて形も複雑。そこで、その文字の中にある3つの「i」に注目する。
その「i」の上の部分「・」だけを取り、3つの丸が形になった。そして色はというと、その時あったペンキで一番量が多かったのは赤、次に黄であった。そのため、量を必要とする背面を赤。丸部分が黄になったということである。
そんな決め方というのも、クリスチャニアらしさが滲み出ているような気がした。
目標
クリスチャニアには目標もある。
《各個人が地域社会の責任のもとに自由に発展できる自治会を構築すること》
個人・社会・自由
現代では、この3つはどこでもテーマになっているように感じる。個人と社会をどう両立させるか、そして人としての「自由」をどう表現してどう保障するのか。
生み出したもの
決して枠におさまらない、新しい切り口からその目標を目指しているクリスチャニアには、デンマーク社会にも多くの影響を与えている。その一つに、クリスチャニアバイクがある。
子どもや荷物を載せられる荷台が自転車の前部分にある、自転車である。これは、ここクリスチャニアが生み出し、現代ではデンマーク内でも頻繁に使用されていた。
不用品をシェアする小屋や、みんなで使える公衆浴場などもある。(住居には基本シャワーがないため)
また、セルフビルドによる独自性溢れる家々があるのも、エコビレッジとしてクリスチャニアが注目されている理由の一つであろう。
昔の家を利用して、その上部に新しい部屋を作ったり、廃材を利用してアートスティックな家を建てたり、クリスチャニア内にさらに小さなコミュニティを作ってその中でコミュニティ菜園を作ってみんなで維持したりと、「自由」を生活の中で美しく表現していた。
誰もが持つ「生活」というステージに「自由」を落とし込むと、このような暮らしになるのかなと思えたのが、「自由のみが聖なるもの」を掲げる、ここクリスチャニアであった。
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